精神世界の旅が終わり、真我で出発します

約束、守ってくれたね

今日もメッセージをお読みいただきありがとうございます。

今日は新聞記事より抜粋してお伝えします

「約束守ってくれたね」

2014年3月の朝。

東京都江東区の成田正幸さん(55)は、妻の千恵子さんとテレビを見ていた。

情報番組は話題の動画を紹介するコーナーに移った。

舞台は結婚式披露宴。

ピアノを弾けないはずの新婦の父親が、家族の思い出の曲を弾き始める。

懸命な父親の演奏に、新婦の目には涙があふれる―。

隣で千恵子さんがつぶやいた。

「『約束』、守ってくれなかったね」。

その一言で、十数年前の記憶がよみがえった。

結婚前のこと。

2人でテレビドラマ「ロングバケーション」を見るのが楽しみだった。

千恵子さんは主演の木村拓哉さんがピアノで弾く曲が大のお気に入り。

ピアノを弾けない正幸さんは千恵子さんに約束した。

「練習すれば弾ける。プレゼントする」と。

「約束」のことを言われた数日後、正幸さんは妻に内緒でピアノ教室に申し込んだ。

最初のレッスンは右手だけで「ド・レ・ミ」。

弾きたい曲があると告げると、教師から「短い時間では難しいですよ」と言われた。

「死にもの狂いでやります」と食い下がった。

理由があった。

千恵子さんは乳がんで闘病中だった。

完治は望めない。

残された時間で、約束を果たしたかった。

教室に通い始めて1年半。

16年5月の結婚記念日に、妻と長女彩花さん(19)を近くの文化センターに招いた。

300人以上が収容できるホールを貸し切りにして、3人だけの「発表会」を開いた。

「あの頃に戻って、今から『約束』を果たします」

結婚式で着たタキシードに身を包み、ピアノを弾き始めた。

曲がホールに響く。

演奏後、歩み寄った正幸さんに妻はほほえみ、言った。

「ありがとう。でも、下手くそね」

8か月後、妻は旅立った。

しばらくして、写真整理のためにパソコンを開けると、

「パパ、ピアノ」というアイコンが目に留まった。

クリックすると、あの日の映像が流れた。

千恵子さんが携帯電話で撮影した動画だった。

「『約束』果たします」。

正幸さんの宣言に、驚く妻の声が残っていた。

「いつ習ったの?」

額の汗を何度もぬぐう正幸さん。

演奏が始まってすぐに間違え、手が止まる。

「緊張して・・・・・」。

謝る正幸さんを、「気にしない、気にしない」と千恵子さんは励ましていた。

たどたどしい演奏にも、「すごい、すごい」。

小さな声が聞こえた。

動画には、妻のやさしさが残されていた。

その日から、ずっと見られないでいる。